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伊勢遺跡の導水施設と井戸(弥生時代後期)
 〜導水施設の機能を向上し、「祭祀用の水」の井戸も設置〜
下鈎遺跡の初期的な導水施設の浄水機能を向上し祭殿域外に設置するとともに
祭域中心部には「祭祀用の水」の井戸を設けました。どう使い分けたのでしょう?
伊勢遺跡の概要
伊勢遺跡は、滋賀県守山市伊勢町から阿村町にかけて発見された弥生時代後期の約30ヘクタールに及ぶ大規模な遺跡で、弥生後期としては国内最大級です。 伊勢遺跡の祭祀域の地図を示します。 伊勢遺跡自体はさらに西側に大きく広がっていますが、そこには伊勢町の集落が存在していてほとんど発掘されていません。 さまざまな形式の大型建物が計13棟も発見されており、それらが円と方形(発掘はL字形の部分)の組み合わせて計画的に配置されています。
伊勢遺跡の範囲 伊勢遺跡全景の想像図
伊勢遺跡の範囲 守山市発掘調査報告書より作成 伊勢遺跡全景の想像図 (CG:小谷正澄)

直径約220mの円周上に等間隔に配列された祭殿群、中心部には方形に配列された大型建物がならび、柵によって囲われています。そばには楼観が建っています。
祭殿群が立ち並んでいる区域の南西側外れに導水施設が見つかっています。
伊勢遺跡の導水施設
伊勢遺跡の南限にある自然水路より水を引いた導水施設が祭域の南西側に設置されています。
この遺構は人工的なもので、北溝と南溝に分かれ、自然流路から取水した水をいったん南溝に溜めて、そのうわずみを北溝から流していたものと考えられます。いわば南溝が浄水施設、北溝が貯水施設として働いていると考えられます。
導水施設の遺構 浄水部の矢板
導水施設の遺構 浄水部の矢板
写真:守山市教育委員会

南溝は、矢板を打ち、小石や細かい砂で裏込めし(補強し安定させる)、粘土を張り、葦藁(あしわら)の束を敷き詰めた窪みが2基連結しています。取水した水の不純物をここで沈殿させる施設ではないかと考えられます。
この北側からは方形杭列と杭の抜穴と考えられるピットが検出され、東側には部分的に板材と裏込めとみられる小石が認められます。これらは浄化した水を溜める貯水升と推察されます。また、自然流路との合流部にも杭や杭を抜き取ったとみられる小ピットがあり、取水に関する何らかの施設があった可能性もあります。
導水路の北側にも何らかの施設があったと考えられますが、発掘範囲外で判っていません。
これらの遺構は浄水施設と導水路がセットとなり、自然流路から取水した水を浄化し、流す施設と考えられます。
自然流路より取り込んだり、水のろ過、水量を調節したと思える工夫が盛り込んであり、導水施設と十分考えられます。
浄水部に目隠しのための覆屋や垣根は見当たりません。
伊勢遺跡導水施設の構造図
伊勢遺跡導水施設の構造図 (イラスト:中井純子)

導水施設の周辺

導水施設は祭殿群から離れたところにあり、近くには水の祭祀に関わる建物はありません。
祭祀域からは少し離れた空閑地にあって、居住域も近くにはありません。きっと秘めやかに行う、見られてはならない祭祀であったのかもしれません。
導水施設がつながっている自然流路の上流側には井戸の痕跡があり、下流側には水場遺構のような施設がありました。次の章でこれらの施設の詳細を述べますが、同じ自然流路につながっているので、関連のある祭祀を行ってた可能性があります。
祭祀域の建物群全体が「導水施設の祭祀」に関わったとも考えられます。

導水施設周辺からの出土物

この区域からの出土遺物はほとんどありません。このことは祭祀域全体で言えることです。
伊勢遺跡の「祭祀用の水」の井戸
伊勢遺跡では3基の井戸が見つかっています。
井戸2は「祭祀用の水」を得るもので、他の2基は水辺の祭祀で使われたと推定しています。
ここでは「祭祀用の水」を得る井戸2を紹介します。

井戸の位置

発掘面積の関係で、井戸2は半分しか見つかっていませんが、直径2m、深さ1.5mの規模です。
この井戸の位置を示します。
伊勢遺跡 中心部の井戸 井戸と建物の関係
伊勢遺跡 中心部の井戸 井2と建物の関係
守山市発掘調査報告書より作成

井戸2の位置は「特別な意味を持つ」所にあります。
@大型建物SB1とSB2の前面の柱穴を延長した線上に井戸がある。
A楼閣(SB10)をはさんで、SB1と井戸2がほぼ同じ位置にある。
大阪の池上曾根遺跡の大型独立棟持柱建物とその前面に設けられていた大井戸は、「祭祀用の水」を得る祭祀の場と言われており、伊勢遺跡の井戸も祭殿、楼観との位置関係から類似性が考えられます
これらのことから、井戸2は「祭祀用の水」を得る首長の儀式に用いられるもの推定しました。
井戸2発掘場所 井戸2形状
井戸2発掘場所 井戸2形状
守山市発掘調査報告書より作成
導水施設と井戸の関係は?
祭祀域外の人目に付かない所に設けられた「導水施設」、祭祀域の建物のそばで人目につきやすい個所に設けられた「井戸」、これらは祭祀者が執り行う祭事に用いられる「祭祀用の水」を得るのを目的とされています。
池上曾根遺跡では、井戸だけで導水施設は見つかっておらず(未発掘の可能性あり)、伊勢遺跡には両方がある、しかし導水施設は祭祀域の外れ、井戸は祭祀域のど真ん中。
古墳時代になると、宝塚1号墳の囲形埴輪では、導水施設の埴輪と「聖なる水」の井戸の埴輪が古墳の造り出し部をはさんで相対する位置に置かれています。
また、5世紀後半の群馬県の三ツ寺T遺跡の豪族の居館からも、導水施設と井戸が相対して設けてありました。
では、設置場所の違いは何によるのでしょうか?
最後の節「導水施設のまつり」で考察したいと思います。

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